“色をのせる、という編集。”
— 染めの話。素材と色と、哲学と。
布に色をつける。
たったそれだけのようでいて、
“どう染めるか”によって、服はまったく別の表情を見せるようになります。
織る=布帛。編む=カットソー。
染色とは、仕上げの作業ではなく、
**服づくりの最後にして最も静かな“編集”**だと、私たちは思っています。
色のつけ方にも、いろいろある。
「染め」とひとことで言っても、いろんな方法があります。
それぞれに、得意な表情も、制約も、個性もある。
たとえば、
**糸の段階で染めてから織る「先染め」**と、
服のかたちになってから染める「製品染め(後染め)」。
どちらを選ぶかで、素材も、色も、空気も、まったく違ってきます。

先染め:織りの中に、色を仕込む。
先染めとは、糸を染めたあとに織る・編むことで色柄をつくる方法です。
- たとえば、ストライプ。
- たとえば、ギンガムチェック。
こうした柄は、プリントではなく**「構造そのものが柄になっている」**から、
洗っても色がはげにくく、深みがにじむ。
色と色が交差して、“あいだの色”が生まれるのも、先染めならでは。
ちなみに、デニムも先染めの代表格。
タテ糸だけをインディゴで染め、ヨコ糸は染めないからこそ、
あの独特の色落ちが生まれるんです。

製品染め:仕上がってから、もう一度問いかける。
一方で、VIRI-DARI DESERTAでは**製品染め(後染め)**も行っています。
服として縫い上げたあとに、あえて色をのせる。
- ステッチの沈み方
- パーツごとの染まり具合
- 糸や布の素材の違いによる“ゆらぎ”
すべてが、偶然と必然のあいだにあるような、唯一の表情を生み出します。
見た目を均一に整えるのではなく、
布が持っていた空気や動きが、色によって立ち上がってくるような感覚。
それが、製品染めの面白さだと思っています。
注染、藍染、そして、色の文化。
私たちはときどき、注染(ちゅうせん)や藍染のような伝統的な染めも使います。
- 注染は、型紙を使って“染料を注ぐ”ことで、表裏のない奥行きのある柄をつくる方法。
- 藍染は、発酵と酸化を利用して、何度も重ねて色を育てる染め方。
どちらも「簡単じゃない」のに、
どこかやさしくて、静かで、どこまでも深い。
“色をつける”ではなく、“色と生きる”という感じがするんです。
染料のこと、ちゃんと話したい。
色をつけるには、染料が必要です。
ここにもまた、サステナブルな視点が欠かせません。
- 反応染料:天然繊維に発色が良く、色落ちしにくい。廃水処理が必要。
- 顔料染め:発色は鮮やか。表面に乗せるだけなので、やや堅さが出る。
- 天然染料:草木・鉱物・微生物などから抽出。やわらかく、変化しやすいが美しい。
私たちは基本的に、反応染料や天然染料を用途に応じて選んでいます。
しっかり染まり、長く着られること。
でも素材の風合いを損なわないこと。
そのバランスが、染めにも“哲学”を必要とする理由です。
化学繊維と染料の相性。
天然繊維とちがって、ポリエステルやナイロンなどの化繊は、水に強く、染料をはじきやすいという性質があります。
だからこそ、染め方も少し工夫が必要です。
- ポリエステルには、分散染料を高温・高圧で染色する方法が一般的。
→ 発色は鮮やかで、耐久性も高い。ただし設備とエネルギーが必要になります。 - ナイロンは、酸性染料や反応染料で比較的染まりやすい素材。
→ 染める温度やpHのコントロールが品質を大きく左右します。 - T/C(テトロンコットン)素材のように、ポリエステルと綿が混ざった生地は、
→ “二浴染め(二重染色)”という二段階の染色が必要になります。
コットン部分には反応染料、ポリエステル部分には分散染料を使って、異なる性質を持つ素材を1枚の布として仕上げていく工程です。
染料の選択は、単に「色をつける」ための手段ではありません。
どの素材に、どう向き合うかという姿勢が、ここにも問われるのです。

色は、思想でもある。
「どんな色の服を選ぶか」は、
「どんな姿勢で服と向き合っているか」ともつながっている気がします。
そして私たちにとって“染める”ということは、
素材や構造に対して最後にそっと添える、“小さな意志表示”。
だからこそ、効率やコストだけでは決めない。
色があることで、その服がもっと大事にされるなら。
そんな染め方を、これからも選び続けていきたいと思っています。